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2009年06月17日

容疑者Xの献身



2008年

監督 西谷弘
出演 福山雅治 柴咲コウ 堤真一

 今まで、ミステリー映画を観て僕は一度も泣いたことがなかった。

 けれども、この作品を観て初めて泣いてしまった。あまりにも哀しい結末。僕は想像すら出来なかった。それは、ひとえにこの映画は、単なるミステリー映画ではなくて、人間ドラマに比重が置かれているからである。そのことは追々触れていこう。

 堤真一演じる天才数学者石神。大学時代の友人である福山雅治演じる物理学者である湯川学。彼らの行き詰まる頭脳戦もさることながら、友情に揺れ動いたり、無償の愛によって突き動かされたりしている。

 劇中では、興味深い台詞が幾度となく出てくる。かいつまんで書いていこう。

 ひとつ目は、湯川と石神が再会したときに交わされる会話。

 湯川がこう切り出す。「山登りは数学に似ている。頂上はひとつ。そこに行き着く何通りの方法から、最もシンプルで合理的なルートを見つけ出すか」

 それに対して、石神は、「まだ数学には、前人未到の山が残っていると答えている」

 後、刑事たちが石神のもとへと行ったときに交わされた会話。

 「石神先生の作る問題は難しそうですね」という問いに対して、彼はこう答えている。

 「難しくはありません。単純な引っかけ問題ばかりですよ」

 「引っかけ問題?」と聞く。それに対して石神は「例えば、幾何の問題に見えて実は関数の問題だとか、少し見方を変えれば解るはずなんです」と答える。この、幾何の問題に見えて実は関数の問題。これは、後に何度も台詞として出てくる。

 柴咲コウ演じる内海と、北村一輝が演じる草薙が、湯川と食事をしているシーンでもこの台詞が登場してくる。まずは、そのまえに、抑えておきたいポイントがある。

 それは、湯川自身が語った言葉である。「数学者と物理学者とでは、答えに辿り着くまでのアプローチが正反対だ。物理学者は、観察し、仮説を立て、実験によって実証していく。しかし、数学者は、数をあまたの中でシュミレーションしていく。つまり、数学者は問題を様々な角度から見ることによって、謎の正体を明らかにしていく訳さ」

 この食事シーンでも先程の会話が再現される。内海が、「確か、石神も同じようなことを言ってました。少し見方を変えれば解るはずだ」と。そして、草薙が後に続く。「幾何の問題に見えて実は関数の問題」。

 湯川は「いかにも彼らしい」と答える。

 場面が変わり、石神と湯川は山を登ることになる。そこで、交わされた会話も同様である。湯川が石神に対して、「面白い話を聞いたよ。君の問題の作り方について。幾何の問題に見せかけた関数の問題。つまり、思い込みの盲点をつくる」。

 この作品は、まさに、思い込みの盲点をついた映画である。冒頭でも書いたように、一見、ミステリー映画のように思い込んでいるが、見方を変えると人間ドラマに比重を置いた作品となっているのである。

 そして、ラストシーン間際に内海と湯川が交わしている会話にも注目したい。敢えて、一部分を省略して再現してみたい。

 湯川は、こう切り出す。「石神と再会したとき、彼は僕にこう言ったんだ。君はいつまでも若々しいな。羨ましいよ。驚いたよ。石神と言う男は、自分の容姿を気にするような人間じゃなかった」

 内海は「教えて下さい。石神は一体何をしたんですか?」

 それに対して湯川は、「僕が、この事件の真相を暴いたところで、誰も幸せにはなれない」

 たまらず内海はこう切り返す。「こんな終わり方で良いの?私の知っている湯川先生は、感情に流されず、常に論理的で、誰よりも真実を追究する人でした。もし先生が、痛みに耐えられないなら、私も一緒に受け止めます」

 悲痛な面持ちで湯川はこう呟いた。「刑事ではなく、友人として聞いてくれるか?」

 戸惑う内海。それでも「友人として、ハイ」と答える。

 意を決したかのように湯川は「この事件の結論は全て僕に任せて欲しい」

 このやり取りからでも伺えるように、湯川自身も石神に対して複雑な気持ちを抱いていたことが解る。この苦悩は、石神に対して、湯川がある数学の問題を思いついたからである。

 その問題とは、「誰にも解けない問題を作るのと、その問題を解くのとでは、どちらが難しいか?但し、答えは必ず存在するとする」

 それにたいする石神の解答は「なあ、湯川、あの問題を解いても、誰も幸せにはなれないんだ」であった。この言葉が最後まで湯川を苦しめていたのである。

 ミステリー映画としても楽しめるが、それ以上に人間ドラマとして楽しめる希有な作品であると言える。観ているこちらとしては、完全に思い込みの盲点をつかれた感じである。出来ることなら、最低2度は観て欲しい。一度目は、単に、ミステリー映画として楽しんで欲しい。至る所に、ヒントが隠されている。そして、二度目は、人間ドラマに比重を置いてみて欲しい。それは、本当に哀しい物語である。

 大抵のミステリー映画は一度観てしまえば飽きてしまうものだが、この作品に関しては、人間ドラマとして観ると飽きることはない。人それぞれが抱える問題。それにスポットライトをあてている。お勧めです。

オススメ度 ★★★★★ 無償の愛に突き動かされた人間の悲哀を感じて下さい。

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posted by Genken at 04:18| 兵庫 ☀| Comment(0) | TrackBack(1) | 映画(や行) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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